電子出版事情 ワセダブック

ワセダブックメニュー一覧出版情報館本のソムリエ



電子出版事情

第1回 電子出版の現在・未来



人間は何百年もの間、紙に書かれた文字を読んできた。あまりにも長い間そうしてきたものだから、別段今になってその行為に対し、疑問に思ったり、不便を感じたりすることはまずあるまい。

しかし、もしあなたの読んでいる本をパソコンや携帯電話の画面で読むことができるとしたら? しかも、あなたの部屋の本棚のすべての本をパソコンの中に保存できて、さらにiPodのように手軽に外に持ち出せるとしたら?

現代に暮らす皆さんなら、一度はどこかでこんな言葉を耳にしたことがあるだろう。「電子出版」「電子書籍」という言葉は、パソコンやインターネットの普及とともに世間でささやかれはじめた。

それは、従来の紙媒体による出版のプロセスをデジタルやウェブの技術に置換し、メディアとしての目的を達成させようという試みである。その試みは一部ではすでに実用段階に入っている。

今回は、このような新しい出版のかたち「電子出版」についてみてみよう。

そもそも「出版」とは

ウィキペディアで調べると、次のように説明されている。

【出版】
出版とは、販売・頒布する目的で文書や図画を複製し、これを書籍や雑誌の形態で発行することで、上梓、板行とも呼ばれる。 ・・・(中略)・・・ 出版(書籍、雑誌)は新聞やラジオ、テレビに比べて情報伝達の速報性などの点で劣っているが、一方で正確性、蓄積性などに優れたメディアである。

なるほど。どうやら書籍、雑誌のような紙媒体で世の中に流通しているメディアのことを「出版」と呼ぶらしい。

それでは「電子出版」とは

前述の「出版」が紙を媒体とした「(紙)出版」なのに対し、「電子出版」は文字・画像情報そのものが、アナログ(紙に印刷された文字)ではなくデジタルである。文字・画像情報をデジタルデータに編集加工し、主にインターネットを利用して配布する出版活動を電子出版と呼ぶ。

デジタルデータで配布すれば、従来の出版プロセスを大幅に効率化することができる。従来、生産・流通の段階で大きなコストと時間を要していたものが、インターネットというしくみを利用することで、格段にダイエットされる。

またインターネットは優れた「口コミ」の性質をもっており、マーケティングの観点からもパフォーマンスが高い。さらに、単純に紙資源を使用しないということで、地球環境にもやさしいと考えられている。

電子書籍の配布方法

電子書籍はインターネットと同じようにコンテンツと呼ばれ、コンテンツ・プロバイダーからインターネットを介し一般ユーザーに提供される。以下に日本国内の代表的なコンテンツ・プロバイダーを挙げる。

コンテンツ・プロバイダーにより配布されているコンテンツのファイル形式は、国内だけでも20種類以上あるといわれ、ユーザーは自分の閲覧端末に適合したファイル形式を選ばなければならない。このファイル形式の種類の多さが、電子書籍の普及を妨げる一因になっているともいわれている。

電子書籍端末

電子書籍を閲覧できる端末には、まずパソコンや携帯電話が挙げられる。これらの端末で電子書籍を閲覧するためには、コンテンツのファイル形式に合った、再生用のソフトウェア(コンテンツ・プロバイダーにより提供される)が必要になる場合が多い。

特に携帯電話は、決済システムと通信機能をもっており、コンパクトで携行しやすいため、電子書籍の端末として非常に向いているといわれている。実際にアメリカでは、iPhoneに電子書籍閲覧のアプリを取り込んで、iPhoneの画面で電子書籍を読む人たちが増えてきているという。

その他には、電子書籍を閲覧するための専用端末も発売されている。代表的なものが、インターネット通販の最大手・アマゾンが開発したキンドルである。キンドルは「本のためのiPod」をコンセプトに2007年、アメリカで発売された。回線契約や通信料なしでインターネットに接続することができ、パソコンを介さずにキンドルのサイトにアクセスして電子書籍を購入できる。本体は文庫本サイズで、画面には電子ペーパーを使用し、電力の消費を抑え、長時間の使用を可能にしている。

ハード面を中心にまだまだ批判的な意見も少なくないようだが、それらのいくつかは、これまでのモデルチェンジで改善されており、当初高価であった価格も大幅に引き下げられ、今後の普及に注目が集まるところだ。

こういった閲覧端末を利用することで、今までの紙媒体では得られなかった、新たなメリットを我々は享受できるようになる。例えば、お年寄りに喜ばれるのが、文字の拡大(縮小)機能である。文庫本などの小さな文字を虫眼鏡を使って追っていた人たちにとって、この機能は非常にありがたいことだろう。

また多くの閲覧端末やソフトウェアには、視覚障害者向けに、文字を音声で読み上げる機能がついており、これまで限られた点字テキストにしか触れることができなかった人たちが、音声で様々な書籍に接することができるようになる。

電子出版ならではのメリット

電子出版のメリットについて、すでにいくつか紹介したが、ここで書籍をデジタルデータ化して配布することのメリットをまとめて列挙しておこう。

• 膨大な書籍の入った端末をいつでも携帯できる
• 自宅蔵書の省スペース化
• 販売店は不良在庫の心配がいらない
• 比較的需要の少ない書籍や絶版本なども扱いやすい
• ユーザーはインターネットを利用して24時間書籍の購入が可能
• 買った書籍をすぐに読める
• 紙資源の使用削減
• 生産・流通のコスト減による書籍の低価格化
• 自費出版が低価格で容易に行える
• 文字情報の検索機能
• 閲覧端末の付加機能(文字拡大、音声読上げ等)

このなかで、特に取り上げておきたいのが、「文字情報の検索機能」である。これは書籍がデジタル化されるにあたって、著者自身が一番注目しているポイントでもある。

書籍の文字情報がデジタル化されれば、インターネットの検索の要領で、書籍の本文中を特定のキーワードで検索することが可能になるだろう。「たしかこの本のどこかに、こんなことが書いてあったはずだ・・・」というときに、そのキーワードを入力すれば、本文中のキーワードを自動的に探し出してくれる。

今までのように時間をかけて、1ページ1ページ文章を読み返す手間がなくなるわけである。学術書や参考書などの調べ物が飛躍的に効率化されるであろう。これこそが正にデジタルデータのもたらす恩恵だといえる。

もう一つ、自費出版についても触れておきたい。

電子出版は、通常の出版に比べて、印刷・製本の工程が必要ないため、コストを格段に安く抑えられる。通常の自費出版の場合、書店へのある程度の流通まで面倒をみてくれる出版社に頼むと、平均して100万円以上の費用負担があるのに対し、電子出版の場合は、多くのコンテンツ・プロバイダーで5万円程度から依頼できる。

またコンテンツ・プロバイダーを介さず、決済システムを導入した自前のサイトを用意すれば、そこで自分の作品を出版することも可能である。紙媒体の出版に比べて、非常に敷居が低くなっており、今までよりも多くの人が出版活動を行えるようになる。

電子出版がかかえる課題

電子出版・電子書籍の魅力的な部分を多く取り上げてきたが、書籍のデジタル化にはいくつかの懸念事項や問題点も存在する。

まずは、かなり根本的なところに立ち返ることになるが、そもそも電子機器の画面で文章を快適に読むことができるのか、という疑問がある。少なくともパソコンのモニターで長時間の読書は目に厳しい。

また、携帯電話のような小さな画面では、表示できる情報量が少な過ぎてストレスを感じるだろう。アマゾン・キンドルはまだ日本に入ってきていないので、著者自身も現物を見たことはないが、電子ペーパーを使用しているので文字の可読性は高いようだ。
しかし印刷物を読むのと遜色ないレベルとは考え難いだろう。

また、電子コンテンツならではの複雑な権利関係も、電子出版が普及する際の大きなハードルになっている。デジタル情報ゆえに契約の対象とする配布媒体・データ形態の範囲が判り難いという問題がある。

そういった背景もあり、日本で現在販売されている電子書籍は、著作権切れの過去の名作や、一般人の書いた著書などが多くを占め、限定されたところに留まっているのが事実である。アメリカではキンドルの存在もあり、日本よりもタイトルは充実しているようだ。

このようにハード面、システム面など、多岐に渡り、数多くの課題を抱えているのが「電子出版」の現状ということになる。

電子出版は普及するか?

流れとしては、この書籍のデジタル化の動きが止まることはないだろうと思う。前述のように、文字のデジタル化は、多くの利用価値を生むし、誰もが低コストで手軽に出版活動を通して自己表現・情報発信することができる。

あとは目の前の課題をどうやって乗り越えてゆくかが問題である。現状では、アメリカでアマゾン・キンドルがその試金石となっている。

実を言えば、過去には日本でもソニーの電子書籍リーダー・LIBRIé(リブリエ)が販売されていた時期もあったが、結局失敗に終わった(現在、ソニーはリブリエの姉妹機「ソニー・リーダー」をアメリカで発売している)。
端末の使い勝手の悪さと、出版社が電子書籍向けにコンテンツを開放しなかったことが原因だったといわれている。

大きな変革のとき、反発や拒絶は付き物である。音楽業界で言えば、iPod/iTunesが登場し、音楽がデジタルデータでダウンロード販売されたときは、方々から脊髄反射的な反発があった。

しかし、時が経ち、気がつけば町ゆく人は皆、耳から白いイヤホンを垂らしている。音楽の購入形態は、CDからダウンロードへのシフトが確実に進んでいる。

インターネット検索のグーグルは、2004年から書籍の内容をオンラインで検索し、一部を閲覧できるサービスを開始した。開始当初は、米作家団体などが著作権を侵害しているとしてグーグルを訴えていたが、2008年末に両者は和解、グーグルはこれを機に本格的に電子書籍市場に進出することを発表している。

大手書店チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルは、オンライン書店のFrictionwiseを買収し、さらに電子書籍端末のPlastic Logicとの提携を進めており、来年には電子書籍端末の市場に本格参入する。

ネットブック「Eee PC」シリーズで有名な台湾のASUSも「Eee」ブランドの電子書籍端末を開発中。

そして、iPodを成功させたアップルが現在開発しているタブレット機は、音楽機能に加え、電子書籍端末の機能を重視しているという。

このように電子書籍の市場は、今年に入り非常に活気づいている。市場規模は右肩上がりで、09年4~6月の米国内の電子書籍の売り上げは3760万ドルで、前年同期の1160万ドルから3倍以上の伸びを示している。

iPodのように全体的に普及するか、それとも限定的なシーンやユーザーに受け入れられてゆくのか、今はまだ判然としない。
しかし、この道は決して途切れてはいないだろう。電子出版の流れ自体が止まることはないのだ。


小林聡(こばやし・さとし)
フリーランスのWebプロデューサー兼ライター。ファブズラボ代表。
東京都杉並区阿佐ヶ谷を中心に活動する。中小企業や個人のサイト制作や運営を軸に、インターネットユーザーに価値あるコンテンツを提供するべく、健全なWeb活動にこだわって仕事をしている。趣味は読書と自転車。好きな作家は夏目漱石、愛車はサーリー。

  • リーガルエンターティメント

  • 建築の世界

  • 映像の世界

  • 漫画の世界