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電子出版事情

第2回 電子出版の範囲と条件


前回は、電子出版の現状と将来の展望について書いたが、それから約2ヶ月、電子出版業界は大きく動いた。アメリカでのみ発売されていた電子書籍端末のアマゾン・キンドルが、世界100ヶ国以上で発売されることになった。もちろん日本も含まれており、待ってましたとばかり、もうさっそく手にしている人もいるだろう。

まだ日本語表示には対応しておらず、読めるのは英文の新聞や書籍だけだが、まずは端末が世界中で利用されるようになったことだけでも大きな前進といえる。世界中のユーザーから声が集まり、端末の完成度は飛躍的に高まってゆくだろう。

インターネット上では、さっそく手にした人たちから、使用感について意見が出始めている。アマゾンはこういった声を収集し、端末の改良をさらに進めてゆくだろう。ソフト面については、状況が整い次第、各国語に対応してゆくものと思われる。

さて今回のテーマは「電子出版の範囲」である。
前述のキンドルのような専用端末で読むものだけが電子書籍ではない。パソコンや携帯電話などのマルチデバイスで読める電子書籍もたくさんある。電子書籍の種類、電子出版の形態は、多岐に亘る。
これからは従来の出版という言葉が、これまで通りの意味では通らなくなるだろう。もっと意味合いが拡大していくものと思われる。出版がデジタルの介入を受け入れた以上、その可能性は果てしなく広がらざるを得ない。

そこで今回は、電子出版の範囲と、その必要条件について整理してみようと思う。まずは前回同様、ここでもウィキペディアによる「出版」の説明を引用しておこう。

【出版】
出版とは、販売・頒布する目的で文書や図画を複製し、これを書籍や雑誌の形態で発行することで、上梓、板行とも呼ばれる。 ・・・(中略)・・・ 出版(書籍、雑誌)は新聞やラジオ、テレビに比べて情報伝達の速報性などの点で劣って いるが、一方で正確性、蓄積性などに優れたメディアである。


つまり出版を簡潔に言い表せば、「文書や図画を複製し発行する活動」になる。そして「文書や図画」がデジタルデータであったり、「複製」や「発行」にデジタル技術が用いられているものが電子出版といわれている。

しかし、デジタルデータのやり取りは、体感的に実感しにくく、そのせいで電子出版という定義自体がはっきりせず、輪郭がぼやけてしまいがちである。

コンテンツプロバイダーにしろ、キンドルにしろ、ユーザーは電子書籍をダウンロードするなどして、端末にデータを取得して閲覧する。つまり、プロバイダー側からすると、コンテンツ(書籍)を複製して配布している。ユーザーは書籍を自分の端末にデータとして蓄積することになる。このストック性が出版物にとって欠くことのできない要素(条件)ではないか。

この点から、ブログは電子出版とは言えない。日本では表現の場、海外ではオルタナティブ・メディアとして存在感を確立しているが、これらは出版とは呼べない。ユーザーはサーバー上のデータにアクセスしてブログを読んでいるため、そのデータは複製されているわけではないし、ユーザーの端末にストックされてもいない。ストックしようと思えば当然できるが、前提として、そうしやすいようにできているわけではない。サーバーからデータが消去されてしまえば、もう読むことができなくなってしまう。

つまり、いくらブログやホームページに小説やコラムを掲載しても、それは出版ではなく公開という方が相応しい。たとえ小説投稿サイトなどに掲載されても、雑誌のようなデザインのウェブサイトに掲載されても、それは出版ではない。

グーグル・ブックスでは、膨大な数の紙媒体の書籍や雑誌が、インターネット上にアーカイブされていて、私たちはコピーされたページを閲覧することができる。しかしこれも、紙媒体で出版物だったものが、インターネット上にアーカイブされることによって、もはや出版物ではなくなっている。

もし仮に、ホームページに、テキストファイルやPDFの形式のコンテンツが、ダウンロード可能な状態で用意されていた場合、これは出版と呼んで問題ないだろう。最も個人レベルでの電子出版活動である。

また、メールマガジンなども、電子出版の一種だといえる。メールマガジンは、購読者に対して、一斉に同一内容のメールを送信する方法である。その内容は様々で、コラムや小説の場合もあれば、コミュニティーの会報のようなものの場合もある。ユーザーは、送られてきたメールをパソコンなり携帯電話なりに保存しておくことが可能である。

重要なポイントは、紙であれ、デジタルデータであれ、出版物というのは、最終的に個人の保有物にならなければいけないところにある。いつの間にか内容が変ってしまっていたり、データそのものが消失してしまったりせず、ユーザー個人の管理下でストックすることができ、将来いつでも自由に取り出せるものでなければならない。

一見、混同してしまいがちな各種ウェブメディアと電子出版物の間には、このような明白な性質上の違いがあることがいえる。
また、こういったところに、出版物の優位性、というよりもウェブには変えがたい必要性があるのではないかと思う。


小林聡(こばやし・さとし)
フリーランスのWebプロデューサー兼ライター。ファブズラボ代表。
東京都杉並区阿佐ヶ谷を中心に活動する。中小企業や個人のサイト制作や運営を軸に、インターネットユーザーに価値あるコンテンツを提供するべく、健全なWeb活動にこだわって仕事をしている。趣味は読書と自転車。好きな作家は夏目漱石、愛車はサーリー。

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