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電子出版事情

第3回 自分ではじめる電子出版



昨年10月、アマゾン社の電子書籍端末・キンドルが世界100ヶ国以上で発売され、クリスマスシーズンには、1日に最大700万個の売り上げを記録した。
電子書籍の販売も印刷書籍の販売をはじめて上回ったという。このニュースは日本でも各種メディアがたびたび取り上げ、一般市民に電子書籍の時代が意外とすぐ近くまで来ていることを実感させたに違いない。

また今年1月26日には、アップル社がかねてから噂されていたタブレット型コンピュータ「iPad」をリリースすると同時に、電子書籍を販売・閲覧できるアプリ「iBooks」(iTunes の書籍版)を発表した。
これでアップルが本格的に電子書籍市場に参入することになり、アマゾン・キンドルで注目が集まりはじめていたこの業界は、よりいっそうの活気を帯びてきた。

こういったムードのなか、ツイッターなどでは、電子出版や電子書籍について発言が交わされる光景をよく目にするようになった。しかし、それらの会話を見ていると、全体として、まだ電子出版について充分な認識にいたっていないような気がする。

ウェブに精通する者は、どうもウェブ周辺の視野でものを言いがちで、出版業界に身をおく者は、そもそもウェブやテクノロジーに関して暗いようだ。

とある有名なコンピューターギークが、ツイッターで「電子出版とウェブ有料化の違いは何なのか?」という冗談とも真面目とも採れるつぶやきをしたところ、彼のフォロワーたちが延々とその奇妙な質問に対するRTを重ねていたのを見て、すこしがっかりした。
きっと彼らは電子出版という目新しい言葉をつかって会話を楽しみたかっただけなんだろうが。

電子出版の定義や、ウェブメディアとの違いについては、前回までに書いているので、今回は実際に電子出版をやってみる実践編である。
電子出版は従来までの出版のように、出版社にしか手が出せないものではない。我々個人でも出版活動を行うことができる。

今回は、個人レベルでできる3つの出版方法を紹介する。従来の出版に対するイメージ、またキンドルなどの利用形態とは、すこし違う印象を持たれるかもしれないが、やっていること(目的としていること)は紛れもなく出版活動のはずだ。

● メールマガジン
メールマガジンとは、インターネットの普及期から存在する、電子メールを一斉配信する手法である。その名前が表すように、電子メールを利用して、ニュースやビジネスノウハウ、語学学習、小説、エッセイなど様々な内容のマガジンを、多数の人間に配信することができる。
受信したメールマガジンは、通常のメールと同様に、いつまでも保存しておくことができ、読みたいときにいつでも読むことができる。
この仕組みは、「テキストを複製して配布する」という出版の概念に合致し、電子出版の一種に数えることができる。

メールマガジンは、配信代行業者に登録するだけで、誰でも簡単に配信することができる。多くのメールマガジンは無料で発行されているが、内容に自信があれば有料で発行することも可能だ。

配信代行業者で最も有名なのが、3万誌のメールマガジンを発行する「まぐまぐ」だろう。携帯電話向けのメールマガジンを発行するなら「メルモ」も利用者が多い。こういった大手配信代行業者のサイトは、一般の認知度も高く、たくさんのユーザーが集まるため、読者獲得のチャンスも高い。ほとんどの業者で、メールマガジンの発行は無料で行え、コストもかからず手軽に電子出版をはじめることができる。

● 電子書籍販売サイト
電子書籍の作成と販売を行っているサイトは、日本ではそれほど多くはないが、手間がかからずに電子書籍の作成から配布まで行えるので利用する価値はあるだろう。

代表的なサイトが「でじたる書房」と「eブックランド」の2サイト。

「でじたる書房」の場合を例にとって、電子出版の流れを説明してみよう。まず、テキストファイルで原稿を用意して、それを「でじブックメーカー」と呼ばれる電子書籍作成ツールに通す。
すると、でじブックデータの電子書籍を作成することができる。その作成したデータを事務所に送信すると、1~2週間の審査・手続き期間の後、でじたる書房のサイトに書籍の掲載が開始される。

電子書籍は無料で配布することもできるし、数百円の価格を設定して販売することもできる。販売額のうち、50%の印税分が作者に対して支払われることになる。これら全ての機能は無料で利用でき、出版後の維持費用もかからない。

でじブックデータの電子書籍は、専用の閲覧ソフト「でじブックリーダー」で読むことができる。パソコンの画面上で、紙面と同様の感覚で(しおりを挟んだり、マーカーで書き込みしたり)読書を楽しむことができるようになっている。
自分が作った書籍が、このようなにきちんとした形式で人々に読まれるのは、作者にとって満足度は高いだろう。

ただし、こういった電子書籍販売サイトは、一般的には認知度が低く、また外部へのマーケティングもなされないため、ただ登録しただけでは、たくさんの読者に読んでもらうことは期待できない。
自分のホームページやブログを利用して、このサイトで電子書籍を販売していることを自ら宣伝する必要があるだろう。

● 自前のウェブサイトで出版
電子書籍販売サイトに自分の書籍を掲載しても、それを多くの人に読んでもらうためには、自分のホームページやブログで宣伝することが不可欠なのなら、いっそのこと自分のサイトで書籍を配布することができれば話が早そうだ。実は自前のサイトで電子書籍を配布することはそれほど難しくない。

しかし、配布の条件はある程度限定的になってくる。まず電子書籍のフォーマットはPDFを選択することになる。PDFファイルの作成には、フリーのソフト(例えば、PrimoPDF)やPDF Designer)があるので、それを利用する。読み手側からすると、専用リーダーではないので、読みやすさの点で多少の不自由はあるかもしれないが、その反面、PDFファイルは端末を選ばず、様々な環境で書籍を読むことができるので、悪い条件ではないはずだ。

作成したPDFファイルの電子書籍を、サイト上に置いておけば、ユーザーがダウンロードして、それぞれの環境で書籍を読むことができる。
ブログのように、ページにテキストを表示しておくだけでは出版とは呼べないが、PDFのようにデータファイルとして、ダウンロード可能な状態にしておくことで、立派は電子出版になる。

しかし、自前サイトでのダウンロード配布の場合、有料で販売するのは難しいだろう。ダウンロード販売の決済システムを導入すれば、ダウンロード毎に料金を課金することはできるが、一般の個人がやるには、少しハードルが高いように思う。

その代替えの収益モデルとして、サイト上に広告を設置し、そこから収入を得る方法がある。その場合は、書籍を分割して配布するなど、ユーザーのサイトへの再訪率を引き上げる工夫をする必要があるだろう。

また、希望するユーザーには、書籍データをCD-ROMに入れて送付するようにすれば、物販扱いになるので、銀行振込や代金引換などの決済方法も採用できるようになる。


これらのような方法で、個人でも電子出版はすぐにはじめられる。どういった方法を採るかは、各自の出版の主目的を考え(純粋な自己表現なのか、販売して収益を上げたいのか、それとも自分の専門知識をアピールしてビジネスにつなげたいのか)、最も適切と思われる方法を選べばいい。

今回紹介したものは、以前から存在する電子出版の古典的な方法で、最新の技術情報というものではない。
しかし、世間が今、電子出版というものに目を向け始めたことにより、今まで限られた人たちにしか認識されてこなかった個人による電子出版の活動が、世の中に浸透してくれまいかと思っている。

また、アメリカでは、キンドル向けの電子書籍を、個人がアマゾンのショップに登録して販売できるサービスがはじまっている。
その手続きは全てオンラインで完結し、作業時間は5分とかからないほど簡単なものらしい。まだ日本語書籍には対応していないが、将来的には、日本でも個人がアマゾンで電子書籍を販売することが一般化してゆくかもしれない。

電子出版時代には、こういった個人による出版活動が活発になるだろう。出版や書籍が電子化されることによる一番の革新は、読者側にではなく、出版する側にあるのかもしれない。


小林聡(こばやし・さとし)
フリーランスのWebプロデューサー兼ライター。ファブズラボ代表。
東京都杉並区阿佐ヶ谷を中心に活動する。中小企業や個人のサイト制作や運営を軸に、インターネットユーザーに価値あるコンテンツを提供するべく、健全なWeb活動にこだわって仕事をしている。趣味は読書と自転車。好きな作家は夏目漱石、愛車はサーリー。

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