BOOKBOX ライティングの未来形




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翻訳とライティングの可能性

商品価値としての翻訳や通訳は単なる語学レベルでは通用しない。そこには表現され、伝達されなければならないものが必ず存在するからだ。
その点はライティング力も同じだが、翻訳や通訳には、「表現行為」に対するある種の透視力が要る。つまり、「表現者」への敬意が前提だ。
だから翻訳通訳者と表現者を行ったり来たりする「トランスライター」は自省的でもある。その多くは自身のライフスタイルをもち、均衡を保ちつつ、無理をせず、独自のワークライフを作りだしてきている。そして、そんなグッドバランサーは女性に多い。




スペイン語を操る通訳翻訳者&ライター

衛星放送スペイン語ニュース番組の元リポーター、スペイン語新聞の記者兼編集者として活躍。その後、独立し、中南米関連問題や日本政治経済社会、在日外国人問題、女性・家庭などを主なテーマに、取材から編集、執筆、通訳翻訳までを手掛けるマルチクリエイター。



■翻訳者として

フリーとして何年になりますか

フリーランスの時期は足掛け5年強くらいでしょうか。
日本語が母国語で、英語、スペイン語を扱わせていただいています。
翻訳は基本的に頂く案件はできる限り対応させていただいておりますので、映像、音声、文書翻訳などいろいろです。
映像、音声などはテレビ番組の素材が多く、インタビューや海外の番組の内容などをテーマに関わらず翻訳します。


どのような分野の翻訳を主に手掛けていますか

いろいろありますが、最近の翻訳では、映像翻訳や文書翻訳があります。
映像翻訳では、英国、米国でのうつ病治療の現状に関するインタビューやダボス会議パネルディスカッション、新型インフルエンザ発生時のメキシコ、コスタリカでの取材テープ、「エコ大紀行」、「日本国憲法について」など、NHK、TV朝日などのお仕事です。
文書翻訳では、環境政策や財務分析、契約書などです。


そもそも翻訳者になろうとした動機は

できる仕事を必死でしていくうちに、気が付いたら翻訳の仕事をさせていただいている、といったところでしょうか。


翻訳の品質を維持、向上のために、どのような工夫や努力をしていますか

どの形態のお仕事でも、まずどういうお客様向けなのか(テレビの製作スタッフか、会社の海外営業部なのか、など)、そして何のために使うものなのかをできるかぎり把握して、それを念頭に置いて仕事をします。
そうすることで、使用する表現も適切なものが選べますし、相手にとって最適な形態で納めることができます。お客様が出来上がりの翻訳を手に取った時、「あ、読みやすいな、わかりやすいな。」と思っていただけるように努めています。


翻訳ではどのような点を心掛けていますか

文書翻訳では、その都度、該当分野の内容について調べて理解する作業に時間がとられることもよくあります。昨日はごみ処理の話で明日は西陣織、なんてこともよくあります。辞書だけでは分かりません。その分野のことが少しでもわかる人が周りにいれば、いつもずうずうしく、「これどういうこと?」と教えてもらっています。

上記のような点に加え、映像翻訳では、音を聞き取ることが大きな要素で、それは必ずしも楽な作業ではありません。素材の録音状態によっては雑音や周りの音などが邪魔になって話者の声が消えてしまったりなど、よくあります。
それと、話者の文化レベルや出身地方で話し方に癖があり、聞き取りに苦労することがあります。ネイティブに聞いてもらっても聞き取れないフレーズなど、よくあります。
あとはコンテクスト(文脈)で想像して理解するほかはありません。


楽しいと感じるときはどのようなときでしょう

難しい案件で、納得できるきちんとした訳ができたとき、満足感を感じます。
毎回自分の分からないことをいろいろな想像力や論理、調査力などを使って理解できるか、そして時間までに集中力を落とさず丁寧に仕上げるという忍耐力を試されています。


今後、どのような翻訳を手がけてみたいですか

日本のことを外に向けて発信するお手伝いをもっとできたら嬉しいと思います。

■通訳者として

通訳者として独立して、何年になりますか

翻訳者としてフリーになったので、ほぼ同じです。


どのような通訳を手掛けられてきましたか

TV局オンサイトの通訳やアテンド通訳、イベントの通訳が主なものです。
これまで次のようなものがありました。

たとえば、オリンピック開催地選考会スペインのプレゼン、オバマ大統領記者会見。
また、清掃工場、水処理プラントの見学。地上デジタル放送技術、次世代携帯技術などに関するプレゼン、大統領訪日警備関係会議などのアテンドです。

また、イベントの通訳では、コロンビア大使講演逐次、チアリーディング協会理事会逐次/ウィスパリング、ベネズエラ大統領訪日時外務次官お出迎え、ベネズエラ大統領記者会見司会/記者質問などです。

さらに、同時通訳も行います。自己啓発セミナーについては、事前にほぼ内容が分かっているので、普通ではありえないことですが、一人で一日同時通訳をします。


通訳者になろうとした動機などについて教えてください

私が生きている間はまだ技術が発達しても、人々の間のコミュニケーションには仲立ちがいるだろうと読み、異文化間コミュニケーションとしての通訳を大学、スクールなどで学びました。

神戸の大学を卒業前にある輸入業者に就職の内定があったのですが、ちょうど阪神大震災が起こり、全てが白紙になり、実家のある福岡にとりあえず戻りました。そこで国際協力事業のコーディネーター、通訳のお仕事をフリーランスとして頂けるようになり、医学や工業関係など、いろいろな分野のことを勉強させていただけました。

その仕事も面白かったのですが、ちょうど東京に開局したばかりの在日中南米人向けの衛星放送テレビ局でリポーターの募集があったので、演劇などにも興味を持っていた私は無謀にもネイティブではないにもかかわらず応募したのです。
すると、なんと合格してしまい、東京でお仕事をするようになったのです。


衛星放送のスペイン語ニュース番組のリポーターも務めていますね

スペイン語放送チャンネルでは、毎日30分のニュース番組を編集デスク兼アンカーの上司と編集アシスタント一名、映像編集一名、そしてリポーター兼ナレーター兼編集者の私とで作っていたため、何でもしなければなりませんでした。

日本語や英語、スペイン語と取材したり、収集する情報の言語はさまざまですが、アウトプットはスペイン語でした。スペイン語のナレーションも自分の書いた文章は自分で入れます。通訳とナレーションは全くの別物ですから、滑舌もずいぶん鍛えられました。時にはスタジオでカメラを動かすこともありました。

取材にでるのも自分とカメラマンだけで出ることがほとんどですから、最初は何をしていいかまったくわかりませんでした。入社5日目くらいにチリのとても有名なバンドのインタビューがあり、「ほい、行ってこい。」と送り出されたのはいいものの、いったい彼らが何者で、何を聞けばいいのかもわからず、困ったことを覚えています。

時にはホテルのエレベーター前でエルサルバドルの大統領が出てきたところにマイクを向け、日本政府とまとめたばかりの協力文書の内容を訪ねたこともありました。お話の中に出てくる外交のテクニカルな用語が分からなかったけれど、度胸で乗り切ったことを覚えています。
しかし、小さなチームで毎日のニュース番組を作っていくのはかなりのハードワークで、結婚妊娠を機に退社しました。

子供を育てながら自分のできる仕事を手探りで、いろいろトライしていった中で、やはり、通訳業務などの声がかかり、リポーターをフリーでしたり、通訳をしたりするようになっていきました。しかし今度は報道に関わった時期があるおかげでずいぶん中南米の事情には明るくなっており、仕事がしやすくなっていました。


通訳と翻訳の実務上の大きな違いは何でしょう

通訳はノンストップ、巻き戻して聴き返し、調べる時間がないことが大きな特徴です。その場勝負です。事前に大まかな内容が分かっていれば下調べしてその話題に明るくなっていなければ、質が高い訳はできないでしょう。なにせ、言っている内容が理解できないでしょうから。

翻訳は文書でも映像でも、何度でも見直し、聞き直しができることが最大の利点でしょう。調べながら訳出することができます。しかし、その分、出来上がった訳の完成度が求められます。ごまかしがききません。そこに留意しなければならないのです。

■ライターとして

ライターとして活躍されだした経緯を教えてください

子育てをしながらフリーランスで通訳やリポーターをしていた2003年ころ、元の上司から声がかかり、やはり在日の中南米人向けのスペイン語新聞の記者編集者として常勤で仕事をするようになりました。これがまた私にとってはあらたなチャレンジでした。テレビの文章を書くのは案外短い文が多いのですが、新聞の記事はそれに比べて何倍も活字の量があるのです。それに慣れるのに、やはり数カ月かかりました。

テレビでは映像が語ってくれる部分も、新聞では文字で語っていかねばならないので頭の中で想像力をずいぶん働かせ、言葉にしていかねばなりませんでした。

また、テーマ、記事によって文章のスタイルを使い分けます。ストレートニュースにはそれなりの書き方があり、ある事件の経過を時間経過に沿って伝えるクロニクルではドラマチックに書いてみたりと、いろいろです。

たとえば、拉致被害者で日本に一足先に帰国していた父が北朝鮮に残していた娘と再会を果たしたことを伝える記事では、‘「もう大丈夫だよ。」と父は娘を抱き締めて言った。‘で始まり、今回の帰国にいたったいきさつをまとめて語りました。


ライターとしては何年ですか

独立してからちょうど2年がたちました。


どのような媒体に記事を掲載していますか

独立するまで勤めていたスペイン語新聞「インターナショナルプレス」にひきつづき記事を寄せています。

日本国内で主に在日中南米人を対象に発行される週刊新聞で、日本で起こったこと、在日外国人社会での出来事、世界、特に故郷のニュースを主に扱っています。いわゆるエスニックメディアです。

現在、私は日本社会の傾向、経済、夫婦のページの記事を書いています。スペイン語版では毎週出ていますが、ポルトガル語版にも時々掲載されます。


ライターになるために、どのような努力をされましたか

翻訳もライターも、今の自分ができると思うことを、声をかけて下さる方がある限りそれに答えて仕事をさせていただいている、というだけです。


記者時代には、中南米や在日外国人の問題を採り上げていましたね

新聞記者時代にはやはり小さな会社なので、好むと好まざるとにかかわらずひとりでたくさんの分野をカバーする必要がありました。とにかく何でもしなければなりません。分からないことは調べて取り組むほかありません。


どのような視点や切り口をもたれていましたか

あえて言えばスペイン語ができる日本人という立場から、主に日本の政治経済社会について日本語で出ている情報をカバーしたり(新聞、テレビなど)、中南米に関連する政治家、企業人へのインタビューもしました。

例えば、ペルーが日本との自由貿易協定に向けて動いていれば、その動きに関わっている会社の担当幹部に取材に行ったりもしました。ペルーでフジモリ元大統領の訴追が行われていればそのことについて親交のあった日本人政治家にインタビューをしたりもしました。そうしたインタビューは日本語で行い、記事作成段階でスペイン語に起こしていきます。時間勝負ですから、取材から戻る電車の中ですでに書き起こし始めることも多々ありました。


他には、どのような記事を担当されましたか

女性や家庭、ラテン芸能などですね。

家庭面を担当したのは、私が女性であり、既婚で子供もいる、という立場であることもあるでしょう。通信社も含めあらゆるところから、健康や家庭、料理についての情報をあつめて書いていました。基本一人で何ページも担当していましたから、とにかく、毎日何かのページを締め切っていかねばならず、一ページ埋めるだけのニュースを毎日仕上げるのです。それからはレイアウト担当が紙面デザインを作ってくれます。

ラテン芸能も担当しました。日本に来たアーティストの取材にもいきましたし、日本人のたとえばオルケスタデラルスのノラさんなどもインタビューしました。明るい、素敵な方でした。


最近は、どのような切り口で書かれていますか

現在は、主に日本語で情報を収集して、現在のトレンドや消費傾向、またはニッチビジネスなどをスペイン語で書いていきます。

基本的にスタンスは、「日本ではこうである。」ということをこの国に住んでいるがあまり日本語で情報収集ができないがために理解できないでいる読者に伝えることです。

例えば、「ゆるキャラがはやっているよ、どういう現象だよ、それがどう経済をうごかしているよ」などです。


「夫婦」についても書かれているとのこと

毎週書いています。編集者時代からの流れで、夫婦の寝室事情などを扱うと読者受けがよく、だんだん男と女の問題を毎週書いてくれと頼まれるようになって、独立してからも、人気ページとして定着してきたからです。

中南米の人は、愛情表現や性欲については日本人よりは豊かなので、日本人の淡白さは不思議にも移ります。そこで日本の夫婦のセックスレスの深刻さについても書いてみたりします。

しかし、夫婦のいさかいのもとになると、万国共通だったりするので、本や新聞雑誌などで情報収集して、日本のこういう本がこういうことを言っていたよ、と書いてみたりもします。

毎週、夫婦のコミュニケーションの問題を書いたりしていると、日本の夫婦のコミュニケーション下手の深刻さが見逃せない状況にあると感じます。女性がいつまでも、結婚しても母となっても、女性らしく輝くと言う点でも、まだまだ意識が低すぎると思います。
日本の夫婦はまだまだラブラブになる余地がある、男も女もまだまだ魅力的になる余地があると思います。そこをなんとかできないかと日々考えています。


ライティングや取材では、どのような点を心掛けていますか

書くことは全てそうですが、読者を念頭に置いて、内容を伝えるということです。自分中心で書いてはいけません。読者が聞きたいことを書くのです。

ですから、取材するのも、読者が知りたいことを聞くのです。
聞きにくいことでも、なんとかして聞きださねばなりません。


フジモリ元ペルー大統領夫人に対する記事はスクープ的でしたね

フジモリ元ペルー大統領の現夫人に取材させていただいたときは非常に印象時残っています。というのも、元大統領が日本に「政治亡命」していた時期で、まず誰もが取材したい人物ではあったにもかかわらず、取材が難しい人物でしたから。

でも、だめもとで連絡をとりました。そのためには事前に彼女の本を読んで彼女の気持ちを理解してから電話をしました。最初は、ペルー人が主な読者ということで取材を受けたくはなさそうでしたが、話していくうちに、「あなたも女性で頑張っているから、よし、同性ということで、受けるわ。」と承諾してくれたのです。

同性であるという、安心感から取材ではきわどいコメントも出て、それをそのまま掲載したら、ペルー本国ではかなり、その内容がいろいろなメディアでとりあげられましたが、彼女に対する、あのような深い取材は後にも先にもよそから出ていないと思います。


石原慎太郎東京都知事に取材したときはいかがでした

彼に取材したときも、アンチ外国人だと、在日外国人は皆思っていたのに、新たな外国人管理体制の構想を語っている時に、「一生懸命仕事して職場から必要とされている不法滞在の外国人なんているだろ、ああいうのにはビザをあげればいいんだよ。」と発言され、彼のそれまでのイメージを払しょくしてしまったことがありました。

取材では相手に気持ち良く話してもらわねば興味深い話は聞けません。相手の気持ちを高めていく練習を積まねばなりません。そこがインタビューのコツです。


取材後、記事としてまとめるのも難しそうですね

取材してきたら、その中で、重要だと思われる部分を決定します。スペースにあわせてどこまで内容を出せるのかを決定します。インタビュアーにとっては全てが面白いことかもしれませんが、許されるスペースがあります。それで割愛する必要があるのです。

まず、導入で最も重要な内容を伝え、そこから展開していきます。
また、Q&A形式で載せると言うこともあるでしょう。それは、編集上の判断です。時々で違います。


ライティングのどのような点が面白いですか

翻訳でもそうですが、うまくまとめられた時です。


今後、どのような記事を書いてみたいですか

海外向けに鎌倉の大仏のスト―リーなど面白いかな、と考えています。
まだ、調査も始めていないので何とも言えませんが。


翻訳者とライターを兼ねていることについて、どのようにお考えですか。

ライターであることで、論理だてて読みやすく書くと言うことの訓練を日々しているので、日本語でもスペイン語でも、読みやすい翻訳ができるようになると思います。
作家が翻訳をして出版していることもありますよね、それと同じです。表現力の問題です。

翻訳もライティングも、それを読む人のことを念頭に置いて、その時その時求められているものを自覚して書くことが重要です。